なぜ、人はむし歯になるのか?
東京北区西ヶ原にある「おおさわ歯科クリニック」院長の大澤です。
診療室で患者さまとお話ししていると、よくこんな質問をいただきます。「毎日しっかり歯を磨いているのに、どうしてむし歯になってしまうのでしょうか?」子どもの頃、「甘いものを食べたら歯を磨きなさい!」と教えられた方も多いのではないでしょうか。もちろん歯みがきはとても大切です。しかし、むし歯は単に「歯みがきをサボったから」だけで起こる病気ではありません。今回は少し視野を広げて、「口腔内環境」「唾液の働き」「他の哺乳類との違い」という3つの視点から、人間がむし歯になりやすい理由について解説します。
1. 人間の口腔内は「むし歯菌にとって住みやすい環境」
まず結論からお伝えすると、私たち人間の口腔内は、他の多くの動物と比べて、むし歯ができやすい条件がそろっています。むし歯の原因菌として代表的なのが「ミュータンス菌」です。この細菌は、お口の中に残った糖質(特に砂糖)をエサにして増殖し、酸を作り出します。この酸によって歯の表面を覆うエナメル質が溶かされる現象が、むし歯の始まりです。現代の食生活では、ご飯やパンなどの炭水化物、加工食品、砂糖を多く含む食品など、歯に付着しやすく細菌の栄養源になりやすい食べ物を頻繁に口にします。つまり、人間の口の中は、細菌が酸を作りやすい環境になりやすいのです。

2. カギを握る「pH5.5」と唾液の働きむし歯を理解するうえで重要なのが、お口の中の酸性度(pH)と、それをコントロールする唾液です。通常、お口の中のpHは6.8~7.0程度の中性に保たれています。しかし、食事によって糖分が入ると、むし歯菌が酸を作り出し、お口の中は一時的に酸性へ傾きます。
「pH5.5」が一つの目安
エナメル質は体の中で最も硬い組織ですが、酸には弱いという特徴があります。一般的に、お口の中のpHが約5.5以下になると、歯のカルシウムやリンが溶け出し始めます。この現象を「脱灰(だっかい)」と呼びます。ここで重要な役割を果たすのが唾液です。唾液には次のような働きがあります。

そのため、ダラダラと間食を続けたり、ジュースやスポーツドリンクを少しずつ飲み続けたりすると、唾液がお口の中を回復させる時間がなくなります。その結果、お口の中が「pH5.5以下」の状態に長くとどまり、むし歯のリスクが高くなってしまいます。
3. なぜ野生の哺乳類はむし歯が少ないのか?
「野生のライオンやシマウマが、むし歯で苦しんでいる話はあまり聞かない」と思ったことはありませんか。実際、野生動物ではむし歯は人間ほど一般的ではありません。その理由として、主に次の3つが考えられます。
① 食生活の違い
野生動物は、精製された砂糖や加工食品を食べません。草食動物は繊維質の多い植物をよく噛み、肉食動物は肉や骨を噛みちぎって食べます。こうした「よく噛む」という行為は唾液の分泌を促し、さらに歯の表面の汚れが付きにくくなることにもつながります。
② 唾液の性質の違い
犬や猫などの唾液は、人間よりもアルカリ性に傾いている傾向があります。アルカリ性の唾液は酸を中和しやすいため、酸による歯の脱灰が起こりにくいと考えられています。一方で、アルカリ性の環境では歯石が形成されやすく、歯周病になりやすいという特徴もあります。
③ 寿命と歯の構造の違い
人間は80年以上同じ永久歯を使い続けることが一般的です。一方、多くの野生動物は人間より寿命が短く、またウマやウサギなど一部の草食動物では歯が生涯伸び続けたり、すり減ることで新しい咬合面が現れたりするため、人間とは歯の使われ方が大きく異なります。
まとめ:自分の「口腔内環境」を知ることが予防の第一歩
人間は、糖質を多く含む食生活を送り、長期間同じ永久歯を使い続けるという特徴を持っています。そのため、むし歯になりやすい条件がそろっていると言えます。しかし、むし歯ができる仕組みを理解すれば、予防することは十分可能です。
むし歯を防ぐ3つのポイント
① 食事にメリハリをつける
ダラダラ食べを避け、唾液による再石灰化の時間を確保しましょう。
② 唾液の働きを活かす
よく噛んで食べ、水分をしっかり補給し、お口の乾燥を防ぎましょう。
③ 汚れをしっかり取り除く
毎日の歯みがきに加え、フッ化物(フッ素)を活用して歯質を強化し、定期的な歯科検診でお口の状態をチェックすることも大切です。
毎日の小さな習慣が、10年後、20年後の歯の健康を大きく左右します。
ぜひ、ご自身のお口の環境を見直すきっかけにしていただければ幸いです。


